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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和57年(ネ)63号 判決 1984年10月26日

控訴人

小幡義己

右訴訟代理人

吉良啓

五島良雄

被控訴人

桐原武夫

右訴訟代理人

安田雄一

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(一)  控訴人の主位的請求に基づき、

被控訴人は、太洋殖産有限会社に対し、原判決添付別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二)  その余の控訴人の主位的請求を棄却する。

二  控訴人の予備的請求に基づき、

(一)  太洋殖産有限会社と被控訴人との間においてなされた次の契約をいずれも取消す。

被控訴人が太洋殖産有限会社に対し昭和五三年二月二〇日頃貸し渡した金三四一万三、三五七円、及び被控訴人が太洋殖産有限会社に代わつて昭和五三年六月一九日ころ代位弁済した電話使用料等金一五万円、並びに被控訴人が太洋殖産有限会社に代わつて同月二〇日に代位弁済した小吹一哉からの借入金八〇万円の各立替金債権合計九五万円、総計四三六万三、三五七円の弁済に代えて、同年七月五日頃、前同目録(四)記載の土地の所有権及び同目録(五)ないし(七)記載の各土地についての買主の地位をそれぞれ譲渡した代物弁済契約。

(二)  被控訴人は、太洋殖産有限会社に対し、前同目録(四)記載の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三)  被控訴人は、前同目録(五)ないし(七)記載の各土地についてなされた鹿児島地方法務局伊集院出張所昭和五三年七月五日受付第八六五〇号の条件付所有権移転仮登記の抹消登記手続をせよ。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

第一原判決の引用<省略>

第二主位的請求について<省略>

第三予備的請求について

一請求原因の検討<省略>

二抗弁の検討

(一)  <省略>

(二)  予備的抗弁2(2)の消滅時効の主張について検討する。

1 原審記録によれば、控訴人は昭和五四年一二月二〇日付準備書面において予備的請求をなし、当審において追加した予備的請求と同旨の請求を同じく債権者取消権を原因としてなしたが、原審第一五回口頭弁論期日にこれを取下げた事実が顕著である。右事実によれば控訴人は遅くとも昭和五四年一二月二〇日の時点では本件債権者取消権につき民法四二六条所定の取消の原因を覚知したものというべきであり、右予備的請求はこれが取下げられたことにより同法一四九条に照らし時効中断の効力が生じないから右覚知の時から二年を経過した昭和五六年一二月二一日に消滅時効が完成したものというほかない。

そうすると、一応被控訴人の予備的抗弁2(2)により本件債権者取消権は消滅したかのように考えられなくもない。

2 しかしながら、原、当審記録によれば、控訴人はその主張するように本訴において太洋殖産から被控訴人に対する予備的請求にかかる前示土地の代物弁済契約が存在しないことないしはそれが通謀虚偽表示により無効であるとして、予備的請求と同一の被保全債権に基づき民法四二三条の債権者代位権を行使し右土地の登記名義の太洋殖産への取戻しを請求して控訴人に対し所有権移転登記手続及び同仮登記の抹消登記手続を求めていることが明らかである。

そして、このような場合にも契約の不存在ないし通謀虚偽表示による債権者代位権と詐害行為に対する債権者取消権とはなお訴訟物を異にするけれども、両者はともに同一の被保全債権の対外的効力として同一の不動産を債務者に取り戻し債権の責任財産の保全を図ることを目的としたものであり、その財産減少行為が全く不存在である場合はもとより、それが虚偽表示であるときは無効であり、これに基づき登記がなされた場合には、民法四二四条の取消権によるべきでなく、民法四二三条の代位権によつて登記の抹消等を求めるべきであつて、その法律行為が真正に実在するか、虚偽表示によるものであつても、それが不法原因給付となり返還請求できないとか、転得者が虚偽表示につき善意であるときなどに限り債権者取消権を行使し得るのである。したがつて、本件のような場合における債権者代位権と債権者取消権とは少なくとも実体法上は両者が選択的に成立するものであつて、債権者がその一方を選択しこれに基づき訴訟が係属している以上、その確定的判断がなされるまでは、債権者に必ず他方を予備的請求としてその権利主張の付加を求めるのは相当でなく、相手方としてもその間適法な権利行使を受けているのと同視しうる地位にあるということができるから、債権者がどちらか一方の訴により不動産の取り戻しを請求しているときには、これをもつて他方の訴えの提起に準ずる中断の効力があるとまではいえないが、暫定的中断事由たる催告に準じた時効中断の効力が訴訟係属中認められるのであつて、その係属中ないし係属後六ヵ月内は民法一五三条に準じて裁判上の請求をなすことができ、その間は消滅時効に罹ることがないものと考える(なお、最判昭四八・一〇・三〇民集二七巻九号一二五八頁参照)。そして、このことは一たん予備的請求としてなした一方の訴を取下げた後再びこれを請求する場合にも異ならないというべきである。けだし、右の訴の取下げは被保全債権に基づく不動産の取戻の権利主張をやめたものでもなく、その権利についての判決による公権的判断を受ける機会を放棄したものともいえないからである(最判昭五〇・一一・二八民集二九巻一〇号一七九七頁参照)。

したがつて、被控訴人主張の予備的抗弁2(2)の消滅時効の主張は採用できない。

第四結論<省略>

(吉川義春 甲斐誠 玉田勝也)

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